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弁護士ブログ-「縁の下の力持ち」

ひき逃げと併合罪

9月に入り暑さも和らいできました。遠出をして遊びに行くことも多くなってくるのではないかと思います。

自動車の運転中に歩行者を轢いてしまった場合、自動車の運転者には負傷者を救護して警察に報告する義務があります(道路交通法72条)。これは、運転者に過失のない交通事故であっても同様です。

 

もし、わき見運転をしていたXさんが、歩行者を轢いてケガを負わせたものの処罰を受けるのが怖くなり、その場から逃げてしまった場合、どのような刑罰が科されるでしょうか。

まず、自動車運転上の必要な注意を怠って人を負傷させたことは、「過失運転致傷」の罪にあたり、7年以下の懲役若しくは禁固又は100万円以下の罰金が科される可能性があります(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条)。

また、負傷者に対する救護措置を講じなかったことが「救護義務違反」にあたり、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科される可能性があります(道路交通法117条2項)。

なお、警察への「報告義務違反」についても、3月以下の懲役または50万円以下の罰金に処するとの規定がありますが(道路交通法119条10号)、その場から逃げたという「救護義務違反」と同一の行為についての責任なので、より重い「救護義務違反」についてのみ処罰の対象となります(「観念的競合」といいます)。

 

ここまでをまとめると、Xさんは、①「過失運転致傷」について、7年以下の懲役若しくは禁固又は100万円以下の罰金、②「救護義務違反」について、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科される可能性があります。では、Xさんに懲役17年(①のMAX7年+②のMAX10年)という刑罰を科すことはできるでしょうか。

これについて、確定裁判を経ていない2個以上の罪は併合罪とされ、併合罪を有期懲役に処するときは、最も重い罪について定めた刑の長期に2分の1を加えたものを長期とするとの規定があります(刑法45条前段、47条本文)

そのため、Xさんの場合、②「救護義務違反」の刑の長期10年に2分の1を加えた15年が長期となり、懲役15年を超える判決を下すことはできません。同様の理由で罰金についても150万円を超える判決を下すことはできません。

交通事故の加害者にどのような刑が科されるかはケースバイケースですが、ひき逃げは重罪ですので(自動車運転免許証も長期間欠格となります)、きちんと救護・報告するようにしてほしいです。

弁護士 天野広太郎[2017/09/06]